ADHDな東大生のブログ

ADHDな理系東大生が日常や考えたことを書くブログです

中高生のあなたへ送る、進路に関するあれこれ、の補足

さっきはてな匿名ダイアリー(いわゆる増田)でこのような記事を見つけた。

 

anond.hatelabo.jp

 

私もこれまで進路選択において数々の間違いを犯してきた。高校の時に文系選択をしたのもそうだし、病院の辛気臭いイメージから医学部受験を速攻で選択肢から外してしまったこと、等々。だから読んでいて思うことも多かったので、(これを書いた人よりは長く生きてきた立場から)色々と進路に関して書けることを書いていきたい。

 

「中高生の間にしておくべきこと、それは、勉強よりも自己分析である。」

 

これは間違いない。いくら勉強して道を進んでも、進む方向を間違っていれば意味がない。 

ただ自己分析では、「自分のしたいことは何か」を見つけることに必ずしもこだわる必要はないと思う。

 

と言うのも中高生が知り、理解できる職業の幅は限られているからだ。この記事では料理人とか、文学とか、看護といった分野が例として挙げられているけど、これは少し漠然とし過ぎているし、いわゆる「誰もが知っている職業」である。けれど、世の中に存在する職業はそんな「誰もが知っている職業」ばかりではない。

 

例えば数学系出身者に人気な「アクチュアリー」(統計分析に基づいて保険料などを計算する人のことらしい)という職業を中高の段階で知っている人は少ないだろう。私も高校の時にR-CAPとかいう職業診断を受けたことがあって、適性が高い職業の中にアクチュアリー」があった。けど当時は「アクチュアリー」が何かも知らなかったし、ふーん、何かかっこいい名前だけどどうでもいいや、という感じで読み飛ばしてしまった。仮に当時知っていたとしても馴染みもない保険業界に興味を持つことなどなかっただろう。社会との接点の少ない中高生の段階で適職を見出そうとするのは難しいのだ。

 

だから中高のうちにやっておくべき一番効果的な自己分析は自分の強み・弱み、好みの傾向を把握して、就職において「絶対外せない条件」を見出すことだと思う。そしてそこから逆算して、行きたい大学と学部を決めることが大切だ。

 

例えば私の場合、ADHD傾向のため対人関係が致命的に苦手だった。中高でもいわゆる「陰キャ」というやつで、文化祭でワイワイ企画をやってもてはやされるような、いわゆる「陽キャ」にはなれなかった。

私には彼らほどのコミュニケーション能力(以下コミュ力)はないし、文化祭の企画のように対人能力が売りの分野では絶対に勝てなかった。そういった原体験から逆算しても、就職ではコミュ力で食っていく仕事ではないということが「絶対外せない条件」だった。

 

なので、大学で文系学部に進学するのは悪手だった。大学に入学した頃は、クラスやゼミに馴染めずにバカにされ、苦労の毎日だった。そしてこのブログの自己紹介でも書いた通り、文系職の大部分は多かれ少なかれ対人能力を売りにする仕事だ(営業職や企画職なんかが代表例だし、東大生に人気の官僚やコンサルだってとにかく人と接する仕事だ)東大文系学部卒の同級生の多くはこうした仕事に就いていった。

このような仕事では、面接の段階からとにかく対人能力が見られる。だから、私のような性格に難のある人間なんてお呼びでなかったのだ(実際就職活動でも文系職は全滅という結果に終わったし、国家公務員試験官庁訪問までは漕ぎ着けたものの面接で弾かれてしまった。)

 

そしてもう一つ気をつけなければならないのは、この手の職場の多くは体育会系気質になりやすく、激務な傾向があるということだ。この手のサービス業では、ここまでやれば終わりというラインがなく、いかに競合相手より多くサービスしたかが問われるからかも知れない(逆にメーカーなら商品を作れば一区切り、という風に業務量が定量化されている)

 

現に金融、商社、コンサル、官僚といった文系エリートの象徴のような仕事はもれなく激務である。激務であるということは寝られないということであり、身体に苦痛を与えなければならないということだ。睡眠は生理的に必要なものなので、これが制約されるのは想像以上の苦痛だ。文系エリート職に就くには過酷な身体的苦痛に耐えられるタフさがなければならないのだ。

実際にそう言ったところに就職した人は、いわゆる「ウェイ系」や体育会系ゴリマッチョのような、私とは住む世界すら違う人間ばかりだった。銀行に就職した同級生も、飲み会宴会芸ゴルフ漬けの日々を送っているようだ。私のような睡眠不足に弱く体力も根性もない人間は、仮に就職できても1年と続かないのがオチだ。

 

私は文系で大学に入学したけど、この事実を予期し危機感を覚えたのもあって、大学2年の時に進学振分け制度(2年生の段階で進学する学部を自分で決められる制度)を使って工学部に理転した。けどこの事実はもっと前に知っておきたかったし、中高生の時に気がついていれば、理系生としてもっと可能性が開けていただろう。

 

私のような人間がいくら頑張ったところで「陽キャ」にも「エリート商社マン」にもなれないのだ。ならば、自らの限界や特性を見極めた上でそれに合った道に行く方がはるかに良かった。

 

補足として、進路選択についてこれだけは頭に入れておくべきだと感じることをいくつか挙げていきたい。

 

文系からの理転は難しい。逆に文転は簡単だし、理系出身でも文系職に就くことは十分可能。

東大には進学振分け制度があるので、私と同様に理転した人は何人か知っているが、やはりド文系からの理転は非常に難しいし、仮にできたとしても選択肢の幅ははるかに狭くなる。実際理転組は数学とプログラミングさえできれば何とかなる数値計算やコンピューター・サイエンスなどの分野で凌いでいる人が多いし(私もそうだ)、逆に物理や化学をゴリゴリ使う分野に進んだ人は聞いたことがない(そういう人もいるが、その手のケースはもともと高校で理系やってて、今は廃止された後期試験で文科系に進んだ人だったりする)

逆に理系出身で文系職に就くことは十分可能で、周りの工学部生にも文系就職組は多い。

 

② 意外と受験は失敗しても大丈夫

就活をして思ったのは、早慶・旧帝以上の大学ならどんな仕事でも間違いなく門戸が開かれているし、仮にそれ以下でも巻き返しは十分可能だということだ。東大閥で知られる国家公務員総合職(旧国Ⅰ)の説明会でもMARCH出身の官僚がいると聞いた。学校は進学実績を良くするためにいわゆる「良い大学」を勧めてくると思うが、大学のレベルに拘りすぎる必要はないし、まずは何をしたいかで進路を決めるのが賢明だ。

 

イメージで進路を決めない

私は病院の辛気臭いイメージから医学部受験を遠ざけてしまい、商社、官僚といったいわゆる文系エリートの「華やかな」イメージから文系選択をしてしまった。金融に興味がある人がそんなにいるとは思えないのに、就職人気ランキングの上位5社が全て金融機関である事実からしても、イメージの華やかさから就職先を決めている人は結構多いと推察できる。

2017年卒 就職希望・人気企業ランキング|キャリタス就活2017|新卒・既卒学生向け就職活動・採用情報サイト

 

しかし、「華やかな」仕事に就くことが本当に幸せにつながるのだろうか。

ある広告代理店新入社員の死 - Togetterまとめ

今やすっかり有名になってしまった、広告代理店で過労死した女性のツイートをまとめたものだが、「なんか華やかな業界なので憧れてます」と言う学生がいる一方、実際に働いている側は激務は辛いし、休日が欲しいただのサラリーマンなのだ。

 

そもそも金融、商社、コンサルといった仕事が「華やか」とは私には思えない。金融なんて言い換えればただの金貸しやディーラーであり、商社だってただモノを回したり投資してるだけ、コンサルはただ資料作って口八丁でアドバイスするだけとも取れる(多くの人を敵に回しそうな発言だがw)。逆にモノを創って社会に直接貢献できるメーカーの方がよほど「華やか」だという見方もできる。

別に前者を貶めたいわけではない。ただいわゆる「華やか」なイメージを持たれる仕事が実際に「華やか」とは限らないし、私のようにイメージ先行で進路を決めて後悔する人を増やしたくないだけだ。

 

仮にそれでも「華やか」な仕事に就いたとして、1日の大半を過ごす場所は同じ会社の人だ。それに、どうせ社会人になれば忙しくて、周りの友人に仕事を自慢できる時間も機会も少なくなる。だから1日の大半を過ごすことになる職場はいかに「働きやすいか」で決める方が賢明だ。

 

* 補足だが、「楽をしたい」という考えを持つことは悪いことではないと思う。ここからは一橋大卒業後、いわゆる「華やか」な出版社を過労で退職されたニャートさんのブログからの引用(一部改変)だが、

 

日本企業では電通に代表されるように、「最高の答え」「諦めない」「プライド」といった綺麗な言葉で、法律上はどう見ても長時間労働の激務なのに、「お前が激務じゃないと思えば激務ではない」と問題をすり替え、自発的な奴隷になるよう促しているケースが多い。
自らが奴隷であることに気づかせないための、「やりがい」「プライド」「仕事は楽しい」なのだ。


電通のような企業が社員に求めるものは、戦時中に大本営が国民に求めたものと同じである。
「体力」「気力」「忍耐力」「奴隷としての従属性」だ。知力はいらない。

長時間労働パワハラ・セクハラをものともせず、クライアントや上司には絶対服従、無理難題も気合いで押し切る社員が、「優秀」とされる。

 

受験エリートであることと、電通のような企業でサバイブするのに必要なこととの間には、何の関連もない。

就職活動時に、最も重要なのはハードな職場を避けることと気づけなかった人は、みな途中で会社を辞めて、専業主婦や非正規雇用に移っている。

 

nyaaat.hatenablog.com

 

「華やかな」職場といったって、しょせんはこんなものなのだ。逆に「楽をしたい」ならしっかり情報収集をして(会社選びには口コミサイトのVorkersとかが参考になると思う。働く社員に直接話を聞いても、綺麗なことしか言わないケースも多いので注意)とにかくハードな職場を避けることが大切。中高生の段階では①どういった業界にホワイトな会社が多いか調べ、そして②将来その業界に就職できるだけのスキルを磨ける学部に進学しておく、のが戦略として考えられる。

 

④ 迷ったら医学部へ

 それでもやりたいことが分からない場合は、ひとまず優先順位は医学部>その他の理系学部>文系学部と考えておくのが無難だ。ごく身近に医学部の人がいて話を聞く機会も多いが、やはり待遇、資格職という安定・安心、そして仕事量をコントロールできる裁量権(激務が嫌なら楽な科もあるようだし、バイトでも食いつないでいける。研究者の道へも開けている)において医学部に勝るものはなかった。いくら東大卒でもサラリーマンじゃ待遇や労働環境における裁量権は小さい。東大生でも医学部編入目指す人は多いし、私もできることなら医学部編入したい。

 

中高生という立場から見れば、この投稿も年食ったオッさんが若者に説教するようでウザく感じられるかもしれない。けどこの際虎の威を借りてでも言う。一応腐っても名門進学校出身、東大現役合格で一流大企業に就職決まってみて強く感じるのは、「受験は多少失敗してもなんとかなるが、進路を誤ると取り返しが付かない」ということだ。

 

私が中高生の時はとにかく受験優先という感じで、将来に向けた自己分析もアンケート程度、将来のキャリアについて深く考える機会は少なかった。受験に専念するのは悪い事ではないが、今になってしとけば良かったと思うのは将来に向けた情報収集と自己分析だった。

 

わたし世界を知るのが遅すぎた。

大学生になってからではもう取り返しがつかなかった。

 

これは私も同じだ。

 

先ほども述べた通り、受験で多少失敗しても人生に大きなダメージはない。けど、一度進路の方向を誤ってしまえば取り返しがつかなくなる。私は目の前の勉強や同級生との競争ばかり意識したことで、肝心な進むべき方向を誤ってしまった。なんとか大学で工学部に転身してリカバリーは図ったけど、もし中学高校でもっと理科を勉強していたら、今頃医学部に行ったり(お前に受かる実力があるのかとは突っ込まないでほしい笑)、企業の研究所に入って化学や生物の研究をしていたかもしれない。今頃は新しい薬を創って病気で苦しむひとたちの役に立てたかもしれない。

 

だからどんなに目の前にことで忙しくても一度立ち止まって、これまでの人生を振り返り、進路選択を考えてほしい。長くなってしまったけど、この投稿が誰かの目に止まってせめて注意喚起くらいにでもなってくれれば望外の喜びである。